ちば日記

生まれも育ちも会社も千葉。生粋の千葉県民です。

血と硝煙と煙草が臭い立つ 猛き箱舟 船戸与一【徹夜本】

冒頭は冬の南アルプス。五人の高級官僚と特殊民間人を殺し雪山に潜伏するテロリストを追う警察の特別行動部隊。このテロリストは12発の銃弾を喰らっても尚、銃弾を雪山に打ち込み底雪崩を引き起こし、カモシカを殺し囮として川に投げ込み雪山を逃げ続けるとんでもない奴だった。

猛き箱舟 上下巻セット

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物語はその一年半前から始まる。一人のチンピラが酔ったフリをして憧れの人に近づき取り巻きにボコボコにされる。チンピラの名は香坂正次。

大事を成したいという痛い幻想を抱くただのチンピラニートだった香坂が、一年半という驚くべき短期間でなぜ鬼神の如く強くなり、会った人全てを心の底から震え上がらせる死霊の様なオーラを身に纏うに至ったか。およそ1200ページにわたり血と硝煙と煙草の臭いをぷんぷんさせながら、息もつかせぬ勢いで話は進む。

憧れの男、隠岐公蔵の部隊に組み入れられ、マグレブ西サハラ)地域にある日本企業の鉱山をポリサリオ解放戦線から守るため、香坂は仲間と共にマグレブへ飛ぶ。大事を成す人間となる為、本物の歴史のうねりを身をもって感じる為、そして何より隠岐公蔵の様な一流の人間になる為に。そこにどんな悲劇が待っているとも知らずに。

舞台がマグレブに移ってからは香坂の一人称が続く。臨場感は圧倒的だ。渇ききった純白の砂漠、一面に広がる星空、これらの舞台背景が鮮明に浮かび、登場人物達はそこで生き生きと暗躍する。次から次へとやって来る死線、通底流の様に流れる緊張感。裏切り、絶望、恐怖、そして愛。小説が漫画を、そして映画さえも超えてみせることを改めて実感させられる。

もともとは電車通勤の暇つぶしにiphoneで読む為kindle版を買ったのだった。読み始めてからは会社でも家でも先が気になって仕方がない。家に帰ってからkindle端末で一気に読んだ。一度流れに呑み込まれたら徹夜必至の極上冒険活劇。少し血腥いので苦手な人は要注意。